犬のアレルギーって?治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

皮膚病解説

後編では、動物病院に来院する犬に最も多い皮膚病である犬のアトピー性皮膚炎の『治療と予防』について解説します。アトピー性皮膚炎は多因子疾患と呼ばれています。多因子疾患というのは、その名の通り、複数の原因によって起こる病気の事です(反対は、1つの原因で引き起こされる病気ですね)。このようにアトピー性皮膚炎は複数の原因が絡み合って起こる(悪化する)ため、複数の治療が必要になることが多いです。では、どのような治療法があるのか、そして、アトピー性皮膚炎を予防することが出来るのか、について見ていきましょう。

前編はこちらでお読みください。

犬のアレルギーって?原因・症状・診断まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

 

犬アトピー性皮膚炎の治療

治療法について解説していきます。紹介する順番は、優先順位との関連はありません。ワンちゃんによって、効果があるものないものが違うので、その子にあった治療を探していく必要があります。そのため、『オーダメイド治療』という呼び方がされることがあります。

① 薬物療法

最も馴染みがあるのが、薬物療法だと思います。薬物療法には、内服薬による治療と外用薬による治療があります。内服薬には、ステロイド剤、免疫抑制剤、分子標的薬、抗ヒスタミン剤を用いた治療があります。外用薬には、ステロイド剤、免疫抑制剤、保湿剤を用いた治療があります。

犬アトピー性皮膚炎ではステロイドオクラシチニブの短期間の投与によって顕著に症状がおさまりますが、休薬すると多くは再発します。また、食物アレルギーがある場合はステロイドなどの薬が著効しないこともあります。また、注射薬による治療としてインターフェロン減感作療法があり、これらは体質改善により症状を改善する方法です。比較的副作用が少ない治療として用いられています。

 

② シャンプー

犬のシャンプー

皮膚の表面に付着した環境アレルゲンを取り除くのにシャンプーは有用です。犬アトピー性皮膚炎におけるシャンプーの頻度は1週間に1を目安にすることが国際的なガイドラインに示されています。しかし、皮膚バリア機能が低下しているため、洗浄成分には十分な配慮が必要です。

犬アトピー性皮膚炎の症例の洗浄に用いるシャンプーとしては、刺激性の低いアミノ酸系界面活性剤をベースにし、保湿成分が含まれている犬アトピー性皮膚炎対応のシャンプーが勧められます。シャンプーに保湿成分が入っていても、シャンプー後にはたっぷりと保湿をおこなってください。

犬のマイクロバブル

低刺激のシャンプーを使用しても、皮膚トラブルが出てしまう症例では、シャンプーの代わりに入浴を用いて、環境アレルゲンを除去することを検討します。入浴には、炭酸泉、食塩泉、保湿浴のほか、マイクロバブル浴などが勧められます。入浴は界面活性剤を用いないため、皮膚バリアを障害するリスクは少ないものの、皮膚の温度が上がり、かゆみが悪化するリスクがあるので注意しましょう。また、入浴後も保湿処置をおこないましょう。

一方、ベタベタの肌になる脂漏症を伴った犬アトピー性皮膚炎症例のシャンプーには難しい側面があります。強い皮脂汚れを落とすための洗浄には洗浄力の強いシャンプーが有効ですが、過剰な皮脂落としは皮膚バリアにダメージを与えるリスクを高めます。犬アトピー性皮膚炎と脂漏症が疑われる場合も、まずは犬アトピー性皮膚炎対応のシャンプーをベースにして、皮脂汚れが落ちにくい場合はシャンプー前の入浴やクレンジング剤を部分的に適用、それでも改善がなければ脂漏症対応のシャンプーへ変更します。

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ブドウ球菌マラセチアが増えた際には、抗菌成分の配合されたシャンプーが有用ですが、洗浄力の強いものが多く、皮膚バリアに負担がかかる可能性があります。ブドウ球菌やマラセチアは皮膚の表面に存在するため、物理的に洗い流すことも可能です。したがって、犬アトピー性皮膚炎において常在菌が増殖している場合には、まずは低刺激の界面活性剤配合シャンプーで菌を落とすことができるかを確認し、それができない場合は局所的・一時的に抗菌成分配合シャンプーを使用することが勧められます。

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③ 保湿

犬の保湿

犬アトピー性皮膚炎では角質のセラミドの減少が皮膚のバリア機能低下に影響している可能性が考えられています。過去にはセラミド関連物質による皮膚バリア機能の改善効果が確認されています。そのほかの保湿成分である、油性成分、多価アルコール、生体高分子、天然保湿因子なども保湿効果が期待できるので、複数の成分を組み合わせると良いでしょう。

シャンプーや入浴後の保湿剤は、さっぱりとした仕上がりが求められることが多いため、掛け流しタイプのローションやスプレーなどが有用です。一方、洗浄以外で使用する場合は、クリームや油剤なども適応可能です。

注意が必要な成分としては、尿素が挙げられます。尿素は角質を柔らかくして水を含ませる性質があります。犬アトピー性皮膚炎では角質のバリアが弱いことから、角質細胞を柔らかくすることでバリアが弱くなる可能性や、刺激が出る可能性があるため注意が必要です。尿素は慢性化して皮膚が分厚くゴワゴワになっている場合や、脂漏症を併発してベタベタのフケが多く出ている場合には有用です。

シャンプーなどによる洗浄の後には必ず保湿剤を使いますが、それ以外の日でも積極的に保湿をしましょう。過去には、犬アトピー性皮膚炎の症例にセラミド、コレステロール、遊離脂肪酸を含んだ保湿剤を週に3回適用したところ、壊れた角質細胞の構造の改善や皮膚症状の緩和が確認されています。犬アトピー性皮膚炎に対しては頻繁に保湿といった意識を持って、しっかりと保湿を実施しましょう。

 

④ 保護

環境アレルゲンが皮膚に付着するのを防ぐために、服を着るのも方法です。特に植物の花粉などに対してのアレルギーが疑われる症例では外出時に服を着用するのが有効です。また犬アトピー性皮膚炎ではかけばかくほどかゆみが増すというかゆみのサイクルに陥っています。皮膚の激しいかき壊しを防ぐためにも、皮膚を保護する服は有用です。

 

⑤ 賦活

乾燥がひどいケースでは、シャンプーや入浴時だけでなく、日常的に皮膚をマッサージして、皮脂や汗の分泌を促しましょう。

 

⑥ 栄養管理

食物アレルギーがあるときは、原因の食物を避けた食事を与えることが第一となります。しかし、厳しい食事制限は犬とご家族の生活の質を落としかねません。したがって、食べることのできる食材を探してあげることも重要です。一方で、たんぱく質の形が似ている食物アレルゲンはアレルギー反応を起こす(交差反応)ことを覚えておきましょう。

アレルギー交差反応

食物アレルギーが否定されても、何を食べても良い!ということではありません。食物アレルギーは7歳以降に発症するリスクがあります。したがって、若い時期に除去食試験に反応せずに犬アトピー性皮膚炎と診断されても、中高齢から食物アレルギーを併発するリスクがあります。その対策を立てるためには、何でもかんでも無制限に与えるのではなく、主食は鹿肉とじゃがいもをベースにしたフード、おやつは乾燥鶏肉と茹でたブロッコリー、サプリメントとして大豆発酵乳酸菌製剤、といったように、与えている食事内容が把握できる状態にしておくことが重要です。

必須脂肪酸やビタミンEをたくさん含んだ食事は角質層の皮膚バリア機能の回復や皮膚炎の緩和に有用である可能性があります。パントテン酸、コリン、ニコチン酸アミド、ヒスチジン、イノシトールを配合した食事は皮膚のセラミド産生を増加させ、皮膚バリア機能の回復に貢献する可能性が示されています。これらの機能的な食事を皮膚強化食ともよび、犬アトピー性皮膚炎の治療の補助として活用することができます。

 

⑦ 環境管理

犬アトピー性皮膚炎ではハウスダストマイトに反応する例が多いため、室内を定期的に清掃することが重要です。また、アレルゲンに曝露されやすい環境を避けることも検討しましょう。例えば、ハウスダストマイトにアレルギーがあるにもかかわらず、ヒトと同じ布団のなかで寝ている場合には、別に寝床を用意するといった対策が必要です。

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⑧ 生活指導やストレスケア

症状に季節性がある場合には症状が悪化する時期の前から準備します。例えば、植物に対して反応する症例では散歩コースの調整などを検討します。また、気温と湿度が低下する冬期には、洗浄法の緩和と保湿の強化などを行います。

ストレスケアとしては、どのようなタイミングでかゆみの悪化が認められるかを詳しく観察します。ストレス事象が存在する場合は、できる限り取り除くよう心がけます。不規則な睡眠やご家族とのアクティビティ(触れ合いや散歩など)の減少はストレス要因につながる可能性があります。

 

※スキンケアの落とし穴

犬アトピー性皮膚炎では適切なスキンケアが行われていないと症状の悪化を認めます。よくあるスキンケアの落とし穴については以下のようなことが挙げられます。

  1. 皮膚や毛の清潔が保たれていない(表面に付着したアレルゲン、皮脂や汗、菌の管理ができていない)
  2. シャンプーをした後に保湿をしていない
  3. 頻繁なシャンプー(例えば週に2~3回洗っているのに全然良くならないなど)
  4. 皮膚のベタつきを落とすために、洗浄力の強いシャンプーを使っている
  5. 過度なドライイング
  6. 毛を短く刈り過ぎている(毛はアレルゲンが皮膚に付着するのを防いでいるため、短く刈るとアレルゲンの付着リスクが高まる)

 

犬アトピー性皮膚炎の予後

犬アトピー性皮膚炎は遺伝的要因が関与している疾患であるため、治療による完治、自然に治ることは期待できません。従って皮膚の症状は慢性再発生の経過をたどります。したがって生涯にわたる管理が必要になります。

 

獣医師からひとこと

アトピー性皮膚炎だから治らないと諦めていませんか?治療を工夫することで改善が認められる事もあります。お困りの方はかかりつけの獣医師や獣医皮膚科医へご相談してみて下さいね。

犬アトピー性皮膚炎の原因・症状・診断については、こちらの記事をお読みください。

犬のアレルギーって?原因・症状・診断まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

 

実際、アトピー性皮膚炎が改善した子から学びたい方は、以下の記事を参考にしてみて下さい。

犬のアトピー性皮膚炎 - 薬の特性を活かした治療が回復への鍵 –

副作用を減らしながらアトピー性皮膚炎とマラセチア性皮膚炎が改善した1例

愛犬のアトピー性皮膚炎の症状をもっと良くしたい -柴犬12歳の場合-

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