犬の脂漏症って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

皮膚病解説

脂漏症はフケやかゆみ、そして独特なニオイが犬とご家族にとって最も煩わしい皮膚トラブルのひとつです。その原因と対策についてご説明します。

また、よくある質問に「脂漏症とマラセチア性皮膚炎は違うんですか?」というものがあります。結論からお伝えすると、“違うんです”。シンプルに考えると、①脂漏症があり→②マラセチア性皮膚炎になる、という流れになります。本記事では、なぜ脂漏症になってしまうかをお伝えしていきたいと思います。

※マラセチア性皮膚炎についての詳しい説明はコチラ

犬のマラセチア皮膚炎って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

 

脂漏症とは

脂漏症はその名前のとおり『皮脂が漏れる』と書きますので、皮脂が過剰になることによる皮膚トラブルだと一般的には理解されています。ですが、実のところは皮脂のバランスの異常であり、単純に皮脂の量が多くなるだけでなく、皮脂の成分のバランスが悪い場合があります

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それでは、なぜ脂漏症になってしまうのでしょうか?

 

脂漏症の原因

脂漏症になりやすい犬種

① 遺伝的要因

脂漏症は特定の犬種において若い頃から症状が生じることから、遺伝が関係していると考えられています。脂漏症を起こしやすい犬種としては、アメリカン・コッカー・スパニエル、ウエストハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズーが挙げられます。他にもビーグル、ダックスフンド、プードル、バセット・ハウンドなどでも脂漏症を認めます。これらの犬では正常な犬に比べて脂腺の数が多い可能性があると言われています。

 

② 代謝の要因

代謝に関係するホルモン(特に甲状腺)のバランスが悪くなると脂漏症になるリスクが高まります。中高齢から脂漏症を発症する場合の主な要因です。

 

③ 常在菌の要因

マラセチア

脂漏症になると、常在菌のバランスが崩れます。特にマラセチアが増えやすく、それに伴ってかゆみや皮膚炎が生じます。

 

④ 表皮のターンオーバーの要因

皮脂バランスが悪化すると表皮のターンオーバーが変化します。通常では犬のターンオーバーは3週間とされますが、脂漏症では1週間に短縮され、フケが多くなります

 

⑤ 皮膚炎の要因

何らかの原因で皮膚に炎症が生じると、二次的に皮脂の分泌が増えることがあります。

 

⑥ 環境要因

高温・多湿の環境では脂腺からの分泌が亢進します。日本では5~9月に脂漏症の症例が増える傾向にあります。

 

⑦ 食事の要因

年齢ステージに合っていないドッグフードの給与や、糖質・脂質を多く摂取すると脂漏を招く可能性があります。質の悪いドッグフードやドッグフードの酸化にも注意して下さい。

 

脂漏症の皮膚症状

シーズーの写真

脂漏症は左右対称で全身的に症状を認めますが、皮膚が擦れる部分(顔のシワ、首の内側、脇や股、指の間、尾の付け根)で症状が目立ちます。これらの部位はマラセチアが増えやすい部分でもあり、マラセチアの増殖を伴った場合には中等度のかゆみを認めます。犬アトピー性皮膚炎を伴った場合も、同じようにかゆみを伴います。

脂漏症の種類

皮脂の量や成分のバランスが崩れると、表皮のターンオーバーに異常が生じて、フケが多くなります。背中は脂腺の数が多いため、ベタつきを認めることがあります。皮脂量が多くなったベタベタの肌にフケを伴った状態は油性脂漏症と呼ばれ、ベタベタしたフケが毛を束ねるように付着しています。一方ベタベタはなくフケが多いものは乾性脂漏症と呼び、乾燥したフケを認めます。

また、マラセチアの増殖やかゆみをともなった場合は、赤みが生じます。かゆみが慢性化するとゴワゴワ脱毛色が黒くなるといった症状へと発展します。

皮膚以外の症状には、左右対称の外耳炎をともなうことが多く、過剰な耳垢が観察されます。特に油性脂漏症ではベタベタしたワックス状の耳垢が大量に発生することがあります。

中高齢で初めて脂漏症になり、その原因が代謝異常である場合は一般状態の変化を認めます。特に発生の多い甲状腺機能低下症では活動性の低下、食欲の低下、体重の増加、体温の低下、脈拍の低下などが認められます。

 

脂漏症の診断

脂漏症の診断は、主に犬種や症状が始まった年齢、皮膚の症状から診断され、マラセチアの増殖は皮膚押捺塗抹検査(細胞診)で確認されます。高齢になってから症状が始まったケースでは、代謝異常などが原因となっていないか、血液検査や尿検査、ホルモン検査などを行います。

 

脂漏症の治療

保湿方法

治療は脂漏症の原因に合わせた薬物療法や、スキンケア、原因の除去が用いられます。

① 薬物療法

薬を用いた治療には、炎症や皮脂分泌を抑える作用を持つステロイド剤や免疫調整剤、マラセチアの増殖を抑える抗真菌薬などが挙げられます。ホルモンの障害がある場合には、ホルモン調整薬やその病気に応じた治療を行います。

 

② 洗浄

皮膚や毛に付着した皮脂汚れ、フケ、マラセチアを除去する必要があるため、シャンプーによる洗浄が有効です。汚れやフケを効率的に取り除くためには、洗浄力の強い高級アルコール系界面活性剤配合シャンプーが必要な症例は多いです。一方、犬アトピー性皮膚炎を併発しているケースでは、洗浄力の強いシャンプーを用いると刺激が強く、かえって悪化する可能性があります。このような場合には低刺激性のアミノ酸系界面活性剤や保湿成分が配合されているシャンプーから始めてみても良いでしょう。

皮脂の除去にはシャンプー以外に入浴も有用です。シャンプー前に重曹泉や硫黄泉、マイクロバブル浴を検討します。また、部分的な皮脂汚れにはクレンジング剤を用いることもできます。洗浄はシャンプーのみに頼ることなく、入浴やクレンジング剤を併用すると良いでしょう。

シャンプーや入浴の頻度は、まず週に2回から始めて、ベタベタやフケが改善すれば5~7日に1回程度に頻度を下げて行きます。また症状の改善に伴いシャンプー剤の変更を検討します。

 

③ 保湿

保湿が大事という話

保湿は、脂漏症の場合にもシャンプーの後は必ず行うようにしましょう。また、日常的にも保湿を行います。ベタ付きが強い場合は、ホットタオルやワイプなどで汚れを軽く拭き取ってから、保湿剤をつけると良いでしょう。

保湿成分の大きな制限はありませんが、油性脂漏症の場合はローションやスプレーなど、さっぱりとした仕上がりになるものがお勧めです。フケが多くなっている時、慢性化して皮膚がゴワゴワになっている時には尿素の保湿剤が有用です。クリームが最も皮膚を柔らかくする効果が期待できます。固くなった皮膚も10~20%程度の尿素のクリームを毎日適応することで、徐々に柔らかくなっていきます。

乾性脂漏症では、油剤を使用することでフケが緩和する場合があります。スクワランなどの動植物油や必須脂肪酸などが有効です。

 

④ 保護

犬アトピー性皮膚炎の併発が疑われる場合には、服の着用などを検討します。ただし、皮脂汚れで服が汚れやすいため、こまめに取り替えましょう。

 

⑤ 栄養管理

年齢に合っていない食事を与えている場合は、適切な栄養バランスの食事に変更します。またオヤツ(特にジャーキー)を通して糖質や脂質が過剰になっている場合は一度中止してみます。乾性脂漏症では必須脂肪酸を豊富に含んだ食事への変更、ビタミンAEや亜鉛の補給を検討します。食事内容を変更してから肌に改善が認められるには、3カ月ほどの観察期間が必要です。

 

⑥ 環境管理と生活指導

高温・多湿な環境は脂漏症を悪化させます。夏季には室温2528℃、湿度6070を維持するように意識しましょう。冬季に脂漏が緩和するケースではそれに合わせてシャンプーの種類や回数を調整します。犬アトピー性皮膚炎の併発例では環境アレルゲン回避のため、清掃を積極的に行います。

 

脂漏症の予後

若い年齢で発症した場合は、遺伝が関与しているため、根治を期待することは困難で、生涯にわたる治療やスキンケアが必要となります。中高齢から脂漏症になった場合には、原因を治療することが可能であれば根治が期待できます。

 

獣医師からひとこと

いかかでしたか?脂漏症の原因はひとつではないため、その原因をしっかり捉えた治療やスキンケアが鍵となります。今回の記事を参考にしていただいて、同じような症状でお困りでしたら、かかりつけの動物病院または獣医皮膚科医にご相談ください。

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