犬のアレルギーって?原因・症状・診断まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

皮膚病解説

動物病院に来院する犬に最も多い皮膚病は犬のアトピー性皮膚炎(Canine Atopic Dermatitis;CAD)と言っても過言ではありません。アトピー性皮膚炎は様々な要因が複雑に組み合わさって発症し、他の皮膚トラブルを併発する事が多いため、症例によって対応する“オーダーメイドで多面的なケア”が重要となります。

 

■ 犬アトピー性皮膚炎とは

続くかゆみを特徴としたアレルギー性の皮膚炎です。主にハウスダストマイト(室内ダニ)花粉などの環境アレルゲンに対して過敏に反応する免疫システムが存在します。また、遺伝的な要因が背景にあるため、親から子、子から孫へとアトピー性皮膚炎になりやすい体質(下記の免疫や皮膚バリアの要因など)が受け継がれて行きます。

 

犬アトピー性皮膚炎の皮膚症状

アトピー性皮膚炎の症状皮膚の症状は左右対称に分布します。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーにある程度共通して症状が認められる場所は、顔(目、鼻、口の周りを含む)耳、首の内側、胸からお腹(お腹側)、脇、股、指端(足先)です。

アトピー性皮膚炎では、原因のアレルゲンによっては症状に季節的な変動が認められることがあります。例えば、スギ花粉が原因なら春季に悪化、ブタクサ花粉が原因なら秋季に悪化します。ハウスダストマイトが原因の場合は、四季を通して症状を認めることも少なくありません。

フード

毎日食べている主食に対して食物アレルギーがある場合は、症状の季節的な変動は少ないとされます。一方、不定期に与えるオヤツ、季節の野菜や果物、チュアブルタイプの薬などにアレルギーがある場合は、主食の給与とは関係ない時期や時間帯に症状の悪化を認めます。

 

①かゆみ

アトピー性皮膚炎では、中等度のかゆみを伴うことが一般的です。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーのかゆみの大きな特徴は、かゆみが発疹より先に認められることです。つまり「アレルギーの反応が起こる→引っかく→赤くなる→傷が深くなる」という順番で皮膚症状が現れます。かゆみ止めの作用のある薬で症状が良くなることや、カラーや服を装着して物理的にかゆみ動作を抑えると症状が良くなるのは、このような順番が関与しているからです。(そのため、物理的にかゆみ動作を抑えても痒いまま、という事になります。)

 

②発疹

かゆみ動作が起こった後には、主に赤みやブツブツが生じます。かゆみ動作が持続・慢性化すると、脱毛、えぐれ(びらん)、かさぶた、ゴワゴワ、黒くなるといった症状へと発展します。また皮膚バリア機能が低く乾燥傾向にある場合は、カサカサしたフケが出てきます。一方、脂漏症を併発した場合はベタつきとフケが出てきます。

また、アレルギーにおいては、皮膚以外の症状も認められます。

 

◆ 耳の症状

耳の症状

アトピー性皮膚炎や食物アレルギーでは外耳炎の併発がよく認められます。症状が外耳炎から始まるというケースもあります。外耳炎は基本的に皮膚症状と同様に左右対象に生じます。耳が赤い、耳垢が多い、耳の中が臭いなどの症状が一般的です。外耳炎はかゆみを伴うので、耳のまわりの皮膚にも症状が出やすくなります。

慢性・再発性の外耳炎で来院する犬の多くはアレルギーが原因といっても過言ではありません。適切に管理をしないと、耳の穴が塞がるくらい狭くなってしまうこともあります。「毎年この季節に耳が痒くなるんです」いう方は、酷くなる前に動物病院でご相談してみて下さい。

 

目の症状

結膜炎が生じ、涙や目やにが多くなる場合があります。また、目の周囲のかゆみが強い場合は、物理的な刺激によって目のトラブルを生じていることもあります。まだ動物では証明されていませんが、ヒトではアトピー性皮膚炎が原因で白内障が生じることがあります。(目の周囲を掻く/叩くという物理的刺激により発症)

 

消化器の症状

食物アレルギーの症例では、嘔吐、軟便、排便の回数が多い(14回以上)といった症状が認められることがあります。『フード変えたら排便回数が増えた』という場合も、軽度な食物アレルギーの可能性があります。

 

犬アトピー性皮膚炎の原因

なぜアトピー性皮膚炎が生じる、あるいは、悪化してしまうのかをみていきましょう。

①遺伝

好発犬種

アトピー性皮膚炎になりやすい品種には柴犬、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズー、パグ、ボストンテリア、フレンチ・ブルドッグ、ミニチュア・シュナウザー、ラブラドール/ゴールデン・レトリーバー、ヨークシャー・テリア、ワイヤーへアード・フォックス・テリアなどが挙げられます。(国内ではトイ・プードル、チワワ、ミニチュア・ダックスフンドなどの人気犬種にもアトピー性皮膚炎の症例数が多いと考えられます)

アトピー性皮膚炎では3歳までに、食物アレルギーでは6ヶ月齢未満、または7歳以降に症状が現れることが多いです。

 

②環境と免疫

ハウスダスト

アトピー性皮膚炎の発症には原因となる環境アレルゲンが存在する生活環境が必要となります。主な環境アレルゲンには、ハウスダストマイト(室内ダニ)、昆虫、植物の(雑草、牧草、樹木など)、細菌やカビなどがあります。中でも最も一般的なアレルゲンはハウスダストマイトであるため、室内飼育の犬によく認められます。また、散歩コースで植物に触れ、散歩後に皮膚の症状が悪化するケースでは、植物に対するアレルギーが疑われます。

そして、これらの環境アレルゲンに対するIgE抗体という物質が過剰に産生される傾向があります。

 

③ 皮膚のバリア機能

アトピー性皮膚炎では皮膚バリア機能の中心的な役割を果たす角質層(皮膚の最も表面の部分)の構造に異常があることが示されています。特に水分保持に大きく貢献しているセラミドの量が正常な犬よりも少なく、水分が皮膚から奪われやすいと考えられています。皮膚のバリア機能が弱いことで環境アレルゲンが皮膚に入り込みやすくなります

 

④ 分泌腺の機能

先に示したように、アトピー性皮膚炎では皮膚の水分が不足しがちになり乾燥肌になることが予想されます。さらに、皮脂腺や汗腺などの分泌腺の異常を併発することも少なくありません。皮脂や汗の分泌が乏しく不足してしまうと乾燥肌は悪化します。一方、皮脂や汗が過剰に出過ぎる場合もあります。従ってアトピー性皮膚炎ではカサカサの乾燥肌だけでなく、ベタベタの肌(脂漏症や多汗症)ということもあるのです。

ベタベタ肌については、こちらの記事で詳しく解説しています。

犬の脂漏症って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

犬の多汗症って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

 

⑤ 常在菌

健康な犬でも皮膚の表面にはいろんな菌を持っています。アトピー性皮膚炎ではブドウ球菌マラセチアなどの常在菌が増えやすい傾向にあります。その理由にはバリア機能が低下していること、分泌腺の異常があることが関与していると考えられています。また、最近ではアトピー性皮膚炎の皮膚には常在菌のバリエーションが少なく、特にブドウ球菌が増えやすい傾向にあると言われています。常在菌が増えると菌による直接的な皮膚の障害が起こるほか、常在菌に対してアレルギー反応を起こし、さらなる痒みの悪化を招いてしまいます。

 

⑥ 食事

犬では環境アレルゲンはアトピー性皮膚炎、食物アレルゲンは食物アレルギーと分けて考えますが、実際のケースでは環境と食物のどちらに対してもアレルギーを持つ場合が少なくありません。欧米においては、アトピー性皮膚炎の犬の最大75%が何らかの食物アレルギーを有していたことが示されています。したがって、食物アレルギーはアトピー性皮膚炎の一部として捉えることが大切です。

食物アレルゲン

犬の食物アレルギーの原因となりやすい食材としては牛肉、乳製品、鶏肉、小麦などがありますが、その他の食材でもアレルギーを起こすリスクはあります。オヤツをやみくもに与えられている犬では食物アレルギーのリスクが高くなります。同じ食事やオヤツを長期間与えているからといって、食物アレルギーを否定することはできません。また、アレルギー用の食事を与えていれば食物アレルギーにならないということもないので注意が必要です。

 

⑦ ストレス

精神的なストレスが加わることでかゆみが悪化する可能性があります。また、持続的なかゆみは精神的な苦痛を生み、さらに強いかゆみにつながる場合があります。とくに、性格や行動のトラブルが認められるアトピー性皮膚炎の症例ではストレスが悪化要因になることが少なくありません。

 

犬アトピー性皮膚炎の診断

アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの診断を行うことができる特定の検査はありません。国内でもアレルギー検査が発展し、有用ではありますが、そのアレルギー検査のみでアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを診断することはできません。したがって、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーに似た他の皮膚病ではないことを確認して診断されます。

血液検査によるアトピー性皮膚炎の診断ついては、こちらの記事をご参照ください。

動物病院での血液検査で、犬のアトピー性皮膚炎を調べられる?

 

① 感染症の除外

ノミ、ヒゼンダニ、ニキビダニなど、かゆみを起こす可能性のある外部寄生虫症を除外します。これらは検査で検出可能ですが、試験的に治療を行って反応をみる場合もあります。

 

② ブドウ球菌とマラセチアの確認

アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの症例ではこれらの常在菌が増えやすい傾向があります。増殖が確認されれば、それぞれの菌に対する治療を行いますが、これらの菌を除去してもかゆみが残る場合には、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの可能性が高くなります。

 

③ 食物アレルギーの探索

■ 除去食試験

今まで与えたことがないタンパク質および炭水化物を主成分とした主食に8週間変更します。これまでに様々な食事が与えられて、選べるタンパク質や炭水化物の種類が不明の場合は、タンパク加水分解食の使用を検討します。試験期間中は指定された食事以外は(オヤツなど)一切禁止となります。チュアブルタイプの予防薬を使用している場合は、それらに含まれる大豆や肉が食物アレルギーの原因となる場合もありますので、注意しなければなりません。試験後に症状のあきらかな改善を認めた場合は、次に下記の食物負荷試験を検討します。

 

食物負荷試験

除去食試験で皮膚の症状が改善したら、次に以前与えていた食事を与え、症状が再発した場合は食物アレルギーと診断されます。食物負荷試験は、以前給与していた食事をそのまま用いることが一般的ですが、疑われる成分を個別に負荷することも可能です。(例えば、症状が出ていた時に牛肉主体の食事を給与していた場合は牛肉を与えてみるなど)

外部寄生虫、ブドウ球菌、マラセチア、食物アレルギーの影響が全くない状態でも皮膚症状が残る場合、なおかつアトピー性皮膚炎の診断指標に一致する場合はアトピー性皮膚炎と診断されます。また、アトピー性皮膚炎の症状を抑える薬(ステロイドなど)を短期間使用して反応をみたり、アレルギーの血液検査を行うこともあります。

 

◉参考:アトピー性皮膚炎の診断指標

5つ以上当てはまるとアトピー性皮膚炎の可能性が高い、と考えられます。(あくまで可能性です)

アトピー性皮膚炎の診断基準

■ まとめ

いかがでしょうか。獣医師向けの執筆に近いレベルで解説したので、少し難しく感じた方もいらっしゃるかもしれませんね。次回は診断・予防について解説します。

犬のアレルギーって?治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

 

実際、アトピー性皮膚炎が改善した子から学びたい方は、以下の記事を参考にしてみて下さい。

犬のアトピー性皮膚炎 - 薬の特性を活かした治療が回復への鍵 –

副作用を減らしながらアトピー性皮膚炎とマラセチア性皮膚炎が改善した1例

愛犬のアトピー性皮膚炎の症状をもっと良くしたい -柴犬12歳の場合-

食物アレルギーとアトピー性皮膚炎が併発した犬の1例

新しいタイプの治療薬を使用して良化した犬のアトピー性皮膚炎の1例

脂漏性皮膚炎とアトピー性皮膚炎が併発した犬の1例

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