犬猫の皮膚糸状菌症って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

皮膚病解説

■ 皮膚糸状菌症とは

皮膚糸状菌症とは真菌(いわゆるカビ)による犬猫の皮膚疾患です。猫からの感染がもっとも多いとされ、特に野良猫との接触には注意が必要です。皮膚糸状菌が感染した毛との接触でも感染するため、動物病院やトリミングサロン、ペットホテルなどの利用後に発症することもあります。幼若齢や高齢の犬では感染のリスクが高まります。特にヨークシャー・テリア、ペキニーズ、ジャックラッセル・テリアでは重症化しやすい傾向があります。

皮膚糸状菌との接触後に症状が発生しますが、急性でないこともあり、季節性も乏しいため、判断が難しい皮膚病の1つとなります。ヒトにも感染してかゆみや皮膚炎を生じることがあります。ヒトではドーナツ状の赤い発疹が生じることが一般的です(下写真参考)。

 

■ 皮膚糸状菌症の皮膚症状

皮膚の症状は左右非対称に発症するのがポイントです。初期症状としては、足先や顔など糸状菌と直接接触しやすい末端部に症状が出る傾向があります。初期に症状が出た部位を舐めたりすることでほかの部位へと症状が拡大します。また、症状が出ている部分と出ていない部分の境界がはっきりしています。

かゆみの程度は様々ですが、我慢できないほど強いかゆみを伴うことはまれです。皮膚糸状菌は毛に感染するため、脱毛が目立ちます。しかし、皮膚糸状菌症では多彩な発疹が生じ、脱毛以外には、赤み、フケ、かさぶたなどが認められます。 

 

■ 皮膚糸状菌症の原因

犬に感染する皮膚糸状菌はおもに2種類(Microsprum spp.,Trichophyton spp.)あります。

皮膚糸状菌症はおもに菌に感染した犬や猫との直接接触や感染した毛やフケとの接触によって発症します。そのほか、穴を掘るクセのある犬では、土から皮膚糸状菌に感染する可能性もあります。ハムスターなどのげっ歯類やウサギがもつ皮膚糸状菌からの感染がまれですが認められます。ちなみに、げっ歯類やウサギは皮膚に症状が出ていなくても皮膚糸状菌を持っている可能性があります。

 

■ 皮膚糸状菌症の診断

ウッド灯検査は、感染した毛から診断することができる検査です。感染した毛は青リンゴ色に発光します。しかし、ウッド灯検査で感染した毛が光る確率は50%程度のため、完全な検査とは言えません。感染した毛を検出するためには、病変部の毛を採取して顕微鏡で確認する検査(毛検査)が最も信頼性があります。そのほか、真菌培養検査を補助的に用いることがあります。

 

■ 皮膚糸状菌症の治療

皮膚糸状菌の感染が疑われた場合は、なるべく早く動物病院を受診しましょう!生活環境が診断の肝となるので、同居動物や住まいの環境などを細かく動物病院にお伝えしてください。また、同居動物がいる場合には、同時に治療することがあります。

一般的には抗真菌薬による治療を行います。内服薬による治療が中心ですが、クリームやローションなどの外用薬を併用する場合があります。

皮膚糸状菌は毛に感染するため、毛を短くカットすることは治療の補助になります。毛をカットする際には病変部の周囲も広く刈りますが、絶対に皮膚を傷つけないように注意しましょう。カットで傷ついた部分から皮膚の深部に皮膚糸状菌が感染すると治療が難しくなります。

ミコナゾールやクロルヘキシジンなどの抗菌成分を配合したシャンプーは皮膚糸状菌の管理に有効ですが、ゴシゴシと洗うと環境中に皮膚糸状菌が散布される可能性があるため注意が必要です。硫黄泉を用いた入浴も皮膚糸状菌の除去に有効とされます。洗浄や入浴の是非は動物病院と相談して決めることが重要です。洗浄や入浴後は必ず保湿処置を行いましょう。

皮膚糸状菌の感染力はとても強く、感染した毛が環境中に残った場合、1年間感染力を保つ可能性があります。したがって、環境中に存在する抜け毛は徹底的に掃除機で清掃することが必要です。治療中は毎日掃除機をかけ、床だけでなく壁、天井、窓台、通風孔、エアコンフィルターなども掃除しましょう。また、毛が大量に付着した寝具やカーペットなどは廃棄することも検討します。掃除に加えて、週に1回のペースで次亜塩素水や加速化過酸化水素水を用いて消毒することも検討しましょう。

皮膚糸状菌の感染を拡大しないために、治療が完了するまでは他の動物との接触を避け、移動を制限します。人の接触も制限します。また、疑われる感染ルートを回避しましょう。

 

■ 皮膚糸状菌症の予後

適切な対応により2~3カ月で完治しますが、清掃や消毒、感染ルートの回避を行わないと再発するリスクがあります。

 

■ 獣医師からひとこと

皮膚糸状菌症は犬だけでなくヒトにも感染する、人と動物の共通感染症です。また、治療や住環境の清掃、消毒が不十分だと繰り返し感染することもあるため注意が必要です。動物病院の指示に従って、しっかり治療を受けてくださいね!

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