犬の外耳炎って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

皮膚病解説

犬が耳の辺りを痒がっている、よく耳を振っている、耳が汚れてニオイがするなどの症状がある場合、それは外耳炎かもしれません。

外耳炎はいろいろな要因が複雑にからんで発生します。そのため、それぞれのケースで外耳炎を起こしている原因を特定し治療を行います。とくに、犬の外耳炎の多くは、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどのアレルギー性疾患、脂漏症などの角化異常にともなって発生するため、治ったように見えても再発することも多いトラブルです。ここでは主に外耳炎を生じる要因についてご説明します!

■ 外耳炎とは

外耳炎は外耳道(耳の穴の部分)の炎症です。

(外耳炎についてはこちらもご覧ください)

犬の外耳炎って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

■外耳炎の症状

左右両側の耳に生じることが多いですが、原因によっては片側の耳だけに発生することもあります。

多くはかゆみをともない、炎症が重度の場合は痛みを生じることもあります。耳の内側の皮膚には赤みやフケ、脱毛、ゴワゴワ、汚れを認めます。外耳道には赤み、汚れ、腫れなどを認め、時には穴が塞がるほどの腫れやできものが確認されるケースがあります。

■ 外耳炎の原因

外耳炎の病態に関与する因子は、主因、副因、増悪因、素因という4つのカテゴリーからなります。

◎主因

それだけで外耳炎を発症することが可能な因子で、外耳炎を治療するうえではもっともアプローチが必要なものです。

日常的に認められることの多い主因には以下のようなものがあります。

①ミミダニ

(※主因となる感染症の中には、マラセチアやブドウ球菌は含まれません。日常的によく外耳炎から検出されるミミダニ以外の細菌や真菌は後述する副因に含まれます。)

犬のミミダニ症については詳しくこちらをお読みください
犬の耳に寄生するミミダニ症とは?|ミミダニ症が疑われる症状を解説

②アトピー性皮膚炎と食物アレルギー

(※過去には、慢性外耳炎に罹患した犬の75%が犬アトピー性皮膚炎に関連していたこと、食物アレルギーに罹患した犬の55%において外耳炎が認められたことが報告されています。)

③脂漏症

(※耳の脂漏症は皮膚と同様に、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーと併発することもあります。)

④分泌腺の異常

⑤異物:毛、植物、砂、土など

⑥内分泌失調:甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、性ホルモン失調

ここで重要なことは、治療で主因は治療可能か?という点です。ミミダニや異物は根治が可能ですが、アレルギー、角化異常症、分泌腺の異常、内分泌失調は、完治が困難あるいは生涯にわたる治療管理が必要となることが少なくありません。外耳炎をくり返す症例、つまり慢性再発性の外耳炎症例においては、根治困難な主因があることを意識しましょう。また、異物が主因の場合は片側に外耳炎を認めやすいですが、そのほかの主因では両側に外耳炎を認めることが一般的です。

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(アレルギーによる外耳炎についてはこちらもご覧ください)

アレルギーが原因で起こる犬の外耳炎について【獣医皮膚科専門医による解説】

 

◎副因

主因によって外耳炎が起こった結果、二次的に生じる因子です。つまり副因だけで外耳炎は起こりにくいということになります。代表的な副因としては以下のようなものがあります。

①細菌:ブドウ球菌、緑膿菌

②マラセチア

(※マラセチアそのものは外耳炎の主因とはならず、あくまでも副因です)

犬のマラセチア性皮膚炎についてはこちらを合わせてお読みください
犬のマラセチア性皮膚炎ってどんな病気?|犬の皮膚が臭うようになるマラセチア皮膚炎について解説

③点耳薬や洗浄液の影響

(※外耳炎を発症すると点耳薬や洗浄液が使用されますが、適切なものを選択しないと外耳炎の症状を助長する可能性があります。)

副因の多くは、完全に取り除くことが可能です。副因に対するアプローチは外耳炎を管理する上で必要ですが、主因が良好に管理されれば、副因は容易に除去されます。たとえば、耳垢検査で細菌感染像があるからといって、抗菌薬を積極的に全身投与しても、外耳炎に対する本質的な治療とは言えません。細菌感染を引き起こした主因を診断・管理すれば、細菌感染は洗浄のみでも十分にコントロールできます。

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◎増悪因

外耳炎が起こった後に発生する耳の構造の変化で、外耳炎の兆候をより重症化させうる因子です。代表的な増悪因として以下のようなものがあります。

①耳道の浮腫や狭窄

②耳垢過多や上皮移動障害

③分泌腺の閉塞・拡張、炎症

④鼓膜の変化・破綻

⑤耳道周囲の石灰化

⑥中耳病変

これらの増悪因は日常的に遭遇します。外耳炎の初期の増悪因としては浮腫、耳垢過多、上皮移動障害などが主体となりますが、これらは点耳薬の使用や洗浄で十分に管理することができます。

一方、主因の管理が不十分で、初期の増悪因が適切に管理されていない場合に外耳炎は慢性化します。慢性化した場合に認めやすい増悪因は耳道の狭窄、鼓膜の破綻、耳道周囲の石灰化、中耳病変であり、点耳薬や洗浄では管理困難な状態へと発展します。外耳炎の管理は主因へのアプローチが基本となりますが、増悪因の管理を必ず並行して行うことが重要です。

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◎素因

外耳炎が起こる前から存在する要因で、外耳炎の発症リスクを高める因子です。代表的な素因には以下のようなものがあります。

①耳の形態的問題:耳毛が多い、垂れ耳、耳道が細い(短頭種など)

②湿性環境:熱刺激、多湿、耳内への水の侵入(水泳など)

③耳の中のポリープや腫瘍

④中耳炎

⑤衰弱や免疫が低下した状態

⑥過剰な治療処置による耳構造の損傷

素因のリストを見ると主因になりそうなものが並んでいますが、素因だけでは外耳炎は起こりにくいとされます。「高温多湿な環境で生活=外耳炎」にはならないのです。考え方としては「高温多湿な環境で生活する素因がある→分泌腺の異常が起こって外耳炎になる」となります。③も同じで、ポリープはあるけれど外耳炎までは発展していない、といった事例もあります。ただし、ポリープがあれば外耳炎になりやすいですよ、ということです。

日常診察の中で遭遇しやすい素因は、耳の形態的問題と湿性環境、そして治療の影響です。パグ、シー・ズー、フレンチ・ブルドッグ、チワワなどは先天的な解剖学的特徴として耳道が細い犬種です。プードルやシュナウザーは耳毛が過剰であり、日常的な処置として耳毛か抜かれることがあります。可能な耳毛は外耳炎の素因となりますが、過剰な耳毛の処置は上記の⑥に含まれる処置による耳の構造の損傷にあたります。形態的問題と環境要因は完全に取り除くことがむずかしく、生涯にわたってつき合っていかなければならない素因です。一方、③~⑥の素因は取り除くことが可能なため、積極的なアプローチが必要です。

耳のケアについてはこちらもご覧ください

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■ 獣医師からひとこと

外耳炎の原因は菌!というわけではなく、いろいろな要因によって生じること、また炎症が続いたり治りづらくなってしまうのも様々な原因があるということがお分かりいただけましたか?外耳炎の診断や治療については、別のコラムに掲載します。そちらもぜひご覧ください!

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