犬の内分泌疾患って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】
皮膚のトラブルには、全身の病気が影響している場合もあります。特に中高齢の犬に発生が多いのが内分泌失調によるものです。どのような症状がみられるのでしょうか?
■ 内分泌失調とは
内分泌失調とは、ホルモンバランスの不均衡により生じるトラブルです。皮膚や毛の症状だけでなく、全身の症状をともなうことが多いのが特徴です。犬の内分泌失調の中では、とくに副腎、甲状腺、生殖腺のトラブルで毛周期に異常が生じます。
■ 内分泌失調の皮膚症状
皮膚症状は左右対称に分布します。いずれのホルモンの異常でも、頭と横っ腹、太ももの後ろ側などが広範囲に脱毛する傾向にあります。多くの場合かゆみはなく、脱毛が認められます。また、皮膚が弱っている状態であるため、常在微生物(マラセチア、ブドウ球菌、ニキビダニ)の増殖をともなう場合があります。
◎ 副腎の異常
- 皮膚症状:皮膚が薄くなる、皮膚が硬く盛り上がる、毛穴の詰まり(コメド)、脂漏症
- 皮膚以外の症状:多飲(80~100ml/kg)、多尿(40~50ml/kg/日)、過食、お腹の下垂、パンティングの増加
◎ 甲状腺の異常
- 皮膚症状:鼻や尾の脱毛と色素沈着、皮膚が腫れぼったくなる、脂漏症
- 皮膚以外の症状:体重増加、活動性低下、脈拍低下、食欲低下、体温低下
◎ 性ホルモンの異常
- 皮膚症状:まだら状の色素沈着、包皮から陰茎にかけての赤み
- 皮膚以外の症状:不規則な発情、睾丸お大きさの左右差、乳腺や外陰部の腫大
◎ 副腎皮質ホルモンの要因
副腎皮質ホルモンは体にストレス負荷がかかった時に放出されるホルモンで、ステロイドホルモンの一種です。副腎皮質ホルモンは毛の成長を抑制する作用があるため、副腎皮質の機能が亢進した場合(副腎皮質機能亢進症と呼びます)に脱毛が生じます。副腎皮質機能亢進症は、中高齢での発生が多く、ダックスフンドやヨークシャー・テリアでよく認められます。メスの方でやや多い傾向があります。
原因は、副腎皮質ホルモンの分泌を促すホルモンが分泌される下垂体の腫瘍、副腎の腫瘍、長期間にわたるステロイド剤の使用などが挙げられます。
※ ステロイドによる皮膚の変化についてはこちらの記事もご覧ください
◎ 甲状腺ホルモンの要因
甲状腺のホルモンは体の代謝を調整しています。甲状腺ホルモンは毛の成長を促進する作用があるため、甲状腺の機能が低下した場合(甲状腺機能低下症)に脱毛が生じます。
甲状腺機能低下症はドーベルマン・ピンシャー、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、プードル、ミニチュア・シュナウザー、コッカー・スパニエル、シェットランド・シープドッグ、ポメラニアンでよく認められます。おもに中高齢に発生が多く認められますが、大型犬では2~3歳で発症することがあります。去勢や避妊を行なった犬で起こりやすい可能性が報告されています。
◎ 性ホルモンの要因
性ホルモンの代表には男性ホルモンと女性ホルモンがあります。男性ホルモンは毛の成長を促進し、女性ホルモンは毛の成長を抑制します。精巣や卵巣をはじめとした性腺に異常があり、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスが崩れた場合に脱毛が生じます。
性ホルモンの異常は中高齢に発生が多く、未去勢、未避妊の犬に生じます。原因は精巣や卵巣の腫瘍で、精巣が通常の位置にない雄犬ではリスクが高くなります。
■ 内分泌失調症の診断
脱毛以外の皮膚症状や一般状態で疾患を推測します。確定診断には血液検査、尿検査、画像検査(X線検査、超音波検査、CT検査)、ホルモン検査など複合的な健康診断が必要となります。毛検査や病理検査によって毛周期の状態を確認するとともに、常在微生物の増殖状況を確認します。
■ 内分泌失調の治療
代表的な内分泌疾患の治療方法をご紹介します。
◎副腎皮質機能亢進症
主にホルモン調整剤が用いられます。副腎の腫瘍が原因の場合、外科手術が必要になります。
◎甲状腺機能低下症
ホルモン調節剤によって良好に管理が可能です。
◎性ホルモン失調
多くは外科手術(避妊・去勢)が行われます。
■ 獣医師からひとこと
このコラムでは副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症、性ホルモン失調を紹介しました。これらの疾患はホルモンの病気であることは間違いないのですが、腫瘍が原因でホルモンのバランスが崩れる場合がありmなす。そして腫瘍は悪性である場合もあり、生命に関わることもあります。一方、甲状腺機能低下症は腫瘍の病気ではありません。
どの病気であったとしても早期発見、早期治療が大切です。似たような症状が皆さんの犬に見られたら、ぜひ早めに動物病院を受診してくださいね。
※ 甲状腺機能低下症についてはこちらの記事もご覧ください
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