犬のトリミング処置後の皮膚トラブルについて【獣医皮膚科専門医が解説】
皮膚トラブルの中には、動物病院での様々な処置やカット・シャンプーなどのトリミング処置が原因となって生じるものがあります。ですが、状況によってはリスクのある処置を行わなくてはならないこともあります。トラブルが起こる可能性のある処置を理解しておくと落ち着いて対処できると同時に、それを未然に防ぐこともできます。本記事では、トリミング後によく起こる皮膚トラブルを紹介していきます。
■ 毛刈り後脱毛(育毛停止)
1.状態と原因
手術時の毛刈りやサマーカットなど、毛を短く切る(刈る)処置の後に育毛が認められなくなることがあります。具体的な原因は明らかになっていませんが、毛が短く切られることで皮膚表面の温度が変化することや、紫外線の影響などが要因ではないかと推測されています。特にポメラニアンなどの長毛の犬種で起こりやすく、毛を短くすればするほどリスクが高くなると言われています。
2.症状と予後
毛を短く刈った部分に一致して、短い毛が成長しないで残った状態あるいは脱毛を認めます。短毛種では4カ月、長毛種では18ヶ月以内に育毛が自然に再開します。育毛が認められない間は脱毛症に対するスキンケアを検討します。
■ 装飾物の着用による脱毛(牽引性脱毛)
牽引性脱毛
1.状態と原因
リボンやゴムなどで毛を束ねた部分に脱毛が生じる現象で牽引性脱毛と呼びます。装飾物によって毛が引っ張られ、その程度が重度でかつ長時間続くと、毛に対する血液供給が不足して毛が脱落します。リボンなどの装飾物をつけることが多い長毛種でリスクが高くなります。
2.症状と予後
多くの場合、表面はツルツル(瘢痕)になります。束ねた部分の辺縁の方が毛の引っ張られる力が強いため重症になります。脱毛部がツルツルになっている場合には、たとえ薬で治療しても、発毛が期待できないこともあります。
装飾物を使用した場合は、ご自宅に戻ってから装飾物を外すようにすると良いでしょう。
■ 毛色(毛質)の変化
点滴後の皮膚障害
1.状態と原因
毛のカット後、何らかの原因で皮膚が障害されて脱毛し、毛が再生する際に毛色が変化することがあります。毛色が変化する原因は明らかになっていませんが、プードルやシュナウザーで多く認めます。
2.症状と予後
プードルでは皮膚が障害された後に濃い色の毛が発生することがあります。毛色が濃くなる皮膚障害には、強くぶつける、ケガ(ハサミやバリカンで傷つけるなど)や火傷、毛が強く引っ張られる、血流不良、皮下注射などが挙げられます。また、脱毛症が治療によって改善し、毛が再生する際にも毛色が濃くなることがあります。
一方、定期的なカットを継続していると毛色が薄くなることもあります。毛色が変化したプードルで元の毛色に戻ることはまれです。シュナウザーでは脱毛後に黄金の毛が生えてくることがあり、これを黄金毛症と呼びます。シュナウザーの黄金毛は、時間の経過とともに元の毛色へ戻ります。
ミニチュア・シュナウザーの黄金毛症
■ 毛刈りや洗浄後の皮膚炎やかゆみ
毛の流れに逆らったシャンプーの後の皮膚炎
毛刈りやシャンプーなどの洗浄後に皮膚炎やかゆみが生じる場合がありますが、これらは毛の流れに逆らった処置をすることで生じやすくなります。毛の流れと逆方向に毛を刈ると毛の傾きが変わり、育毛時に毛穴の入り口で毛が刺さったり、引っかかったりする場合があり、皮膚炎やかゆみにつながります。
特に毛の硬い短毛種で発症リスクが高くなり、皮膚に赤みやブツブツ、強いかゆみを伴うことがあります。洗浄する時はできる限り毛の流れに沿って行いましょう。皮膚炎やかゆみが生じた場合は、早めに動物病院を受診してくださいね。
■ 獣医師からひとこと
動物病院やトリミングサロンでは皮膚や毛にダメージが出ないように注意して処置を行っていますが、全てのトラブルを未然に防ぐことは非常に困難です。もしも処置の後に毛や皮膚の変化が認められたら早めにご相談されることをお勧めします。また、これらのことを理解してご自宅で洗浄などを行う時には気をつけていただくと安心です。
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