犬のスキンケアはシャンプーだけじゃない【獣医皮膚科専門医が解説】
犬で行うスキンケアの一つに洗浄があります。『洗浄=シャンプー』と思われる方は多いと思いますが、実はそうではないんです。今回は、効果的で皮膚に優しい洗浄を行うための洗浄方法や洗浄剤について、獣医皮膚科専門医が解説します。
■ 界面活性剤型洗浄剤、クレンジング剤、入浴を活用
皮膚の洗浄は汚れを取り除くことが目的です。汚れは皮膚の新陳代謝のさまたげ、皮膚の刺激となります。皮膚の汚れには皮膚そのものから生じる汚れ(内因性の汚れ)と、外環境から皮膚に付着する汚れ(外因性の汚れ)があります。
① 内因性の汚れ
- はがれた角質(いわゆるフケ)
- 皮脂、汗
- 尿、便
- 皮膚常在微生物の産物
② 外因性の汚れ
- ほこり、土など
- 化学物質
- 外用剤
- 食品
- 外環境に存在する微生物
皮膚の表面には、皮脂と汗からなる皮脂膜があります。その皮脂膜の表面にさまざまな内因性、外因性の汚れが付着します。つまり、皮膚の汚れの主体は皮脂膜+他の汚れが混ざったものと言えます。皮脂膜を中心とした皮膚の汚れを効率的に落とすためには、皮脂(つまり油)を皮膚の表面から浮かせとる必要があります。皮脂を除去する作用を持つ洗浄剤には界面活性剤型洗浄剤とクレンジング剤があります。そのほか、入浴も皮膚や被毛の洗浄効果が期待できるスキンケア法です。
① 界面活性剤型洗浄剤
シャンプーや石鹸が含まれます。界面活性剤が皮脂成分をとり囲み、皮膚の表面から除去します。
② クレンジング剤
皮脂となじみやすい油性成分や有機溶剤によって皮脂汚れを溶かし・除去します。
③ 入浴
皮膚全体の処置が可能となり、角質を軟化させる効果が期待されます。硫黄、重曹、食塩などの入浴剤やマイクロバブル浴などを用いることで皮膚の汚れを取り除くことが期待できます。
※ マイクロバブルについてはこちらの記事もご覧ください
■ 洗浄における注意点
台所の油汚れは完全に取り除かなければなりませんが、皮膚の皮脂汚れは取りすぎると、皮膚に必要な皮脂まで除去してしまい、皮膚バリア機能に障害が生じる可能性があります。したがって、皮膚の洗浄剤には皮脂汚れを効果的に落とす洗浄力が求められるだけでなく、『必要な皮脂を取りすぎないこと』『皮膚にとって刺激の少ないこと』も求められます。
しかし、“ちょうどよく皮脂を落とすけれどバリアに必要な皮脂は残す”ことができる洗浄剤はきわめて少ないのが現状です。そのため、洗浄で皮脂を落としすぎてしまった場合は、保湿処置で補うことが重要となります。
■ 外用剤が皮膚汚れの原因に
ヒトの皮膚トラブルの治療には軟膏やクリームなどの外用剤がよく用いられます。種類にもよりますが、外用剤は1日2~3回ほど適応することが一般的です。人は多くの場合、毎日入浴するため1日数回適応し、皮膚に残った外用剤もお風呂で流しています。
一方、犬の皮膚科診療でも外用剤が用いられますが、毎日入浴する症例はきわめてまれです。そのため、洗浄を頻回におこなわない犬では、皮膚に塗布した外用剤が残ってしまい、皮膚汚れの原因となります。そのため、犬に外用剤を塗布した場合は、外用剤の中に含まれる成分が皮膚から吸収された後に拭き取りを行うと良いでしょう。
■ シャンプーのリスクと洗浄後の保湿の重要性
皮膚から水分が逃げていく量を測る指標としては経表皮水分蒸散量(TEWLとも言います)があります。TEWLは皮膚バリア機能を反映する指標のひとつで、測定値が高くなれば水分が皮膚から逃げていく量が多いので、皮膚バリアが障害されている可能性があると考えられます。
健康な犬において保湿成分を配合しないシャンプーで洗った後に測定を行うとTEWLは上昇し、洗浄3日後の時点でも洗浄前の状態に戻っていない可能性が示唆されました。一方、もともと皮膚のバリアが弱くTEWLが高いアトピー性皮膚炎の犬を対象に、シャンプーの後にセラミドやヒアルロン酸を配合した保湿剤を適応すると、TEWLが低下する可能性が示されました。
これらの結果からは、シャンプーだけのケアでは皮脂を取りすぎて皮膚バリア機能を障害する、シャンプー後の皮膚バリア機能の障害は保湿剤によって少なくできる可能性が考えられました。犬でシャンプーを行う時は、できる限り保湿をセットで行うように心がけましょう。
※ シャンプー後の保湿についてはこちらの記事もご覧ください
■ 獣医師からひとこと
洗浄は皮膚の汚れを取り除くために必要ですが、皮膚バリア機能が障害されるリスクもあります。それを防ぐためには、入浴やクレンジング剤、界面活性剤型洗浄剤を上手に利用して、洗浄後は保湿を行うことが大切です。シャンプーした後、保湿をしていなかったという方はぜひ行ってみてくださいね!
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