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犬の多汗症って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

皮膚病解説

皮膚の表面は、皮脂と汗が混合した皮脂膜で覆われていることで、皮膚が正常に保たれています。犬の皮脂や汗によるトラブルは日常的にも多く遭遇する皮膚疾患ですが、ベタベタ肌とかフケ症といった形で捉えられがちで、何が問題でベタベタやフケが起こっているのかはあまり知られていません。

原因が皮脂なのか、汗なのか、分泌が過剰なのか、乏しいのか、といったポイントを押さえることが重要となります。今回はベタベタ肌の原因の1つである多汗症について学び、正しいスキンケアを行うことが出来るようになりましょう!

 

■ 多汗症とは

『汗が多く出てしまう犬の皮膚病』であり、若い頃から発症します。汗が過剰に分泌されると、皮膚の水分が多くなるなり、角質が水を吸って軟化します。角質の軟化が起こると、外部からの刺激に対する皮膚の抵抗力が低下してしまうため、他の皮膚病(細菌感染など)になりやすくなります。また、多汗症の場合は、皮膚表層のpHがアルカリ側に傾きますアルカリ側にある皮膚では、常在菌が増殖しやすくなり、常在菌のバランスが崩れます。とくにブドウ球菌が皮膚の表層や毛穴で増殖しやすく、皮膚炎やかゆみを起こしやすくなります。

多汗症では皮膚のベタつきを生じるため、脂漏症と混同されることが多くあります脂漏症と多汗症ではスキンケアのアプローチ、とくに洗浄方法は大きく異なります。脂漏症と間違えて判断されると、脱脂力やフケを落とす力の強い洗浄剤が頻回に適応されます。したがって、脂漏症に対するスキンケアを徹底的におこなっているにも関わらず、皮膚の状態が管理できていない場合は、多汗症も疑いましょう

多汗症と脂漏症

■ 多汗症の皮膚症状

・かゆみ

多汗症だけでかゆみが生じることは多くありません。しかし、多汗症の犬の皮膚では細菌(ブドウ球菌)が感染しやすくなり、感染が起こっている場合(膿皮症と言います)は中等度のかゆみを認めます。アトピー性皮膚炎が併発している場合も同様にかゆみをともないます。

犬の表在性膿皮症って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】

 

・見ための変化

汗が多く出ている状態なので、皮膚と毛がベタつくようになります。脂漏と同じようなベタつきですが、実は見極め方があります。

・さわった後の手のベタつきが水で比較的簡単に落ちる⇒汗
・石鹸などを用いないときれいに落ちない⇒脂漏

是非ためしてみて下さい。また、汗によって複数の毛が束になり、サラサラあるいはフワフワした質感は消失してしまいます。前述のように、ブドウ球菌の増殖をともなった場合は、ブツブツ、膿、かさぶたなどが生じます。アトピー性皮膚炎をともなっている場合には、赤みが強く出ることがあります。

多汗症の皮膚写真 多汗症の見ため:毛と皮膚が湿って、フワフワ感が消失しているのが分かります

 

■ 多汗症の原因

① 遺伝的要因

多汗症も脂漏症と同様に特定の犬種において発症することから、遺伝的な要因の関与が考えられます。しかし、その詳細はいまだ明らかにはなっていません。

② 精神的な要因

精神的なストレスを感じると汗の分泌が亢進される場合があります。(動物病院を受診すると多汗症が悪化するワンちゃんも多いです。)

③ 皮膚炎の要因

何らかの原因で皮膚に炎症が生じると、汗の分泌が亢進します。

④ 環境要因

気温が高くなり湿度が上昇すると、汗の分泌が亢進します。そのため、多汗症は夏季に悪化する傾向にあります。

⑤ 品種

若齢から多汗症が生じやすい犬種としては、ヨークシャー・テリアやミニチュア・シュナウザー、ポメラニアンなどが挙げられます。

⑥ 生活環境とライフスタイル

脂漏症と同様に、生活環境の温度・湿度が管理されていない場合、多汗症のリスクは上がります。

 

■ 多汗症の診断

多汗症はおもに犬種や発症年齢、発疹の分布と形態から診断されます。つまり、「多汗症は○○検査をやれば分かる」ということはなく、『獣医師の知識と経験』が頼りとなります

 

■ 多汗症の治療

① 洗浄

汗は基本的には水分のため、皮脂とは異なり界面活性剤を用いた積極的な洗浄は必要ありません。むしろ、皮脂が過剰な脂漏症と勘違いして強い洗浄成分を含んだシャンプーを使ってしまうと、皮膚にダメージを与えてしまうことになります

多汗症に対する洗浄法としては入浴が有効です。「え?犬も入浴するの?」と驚かれた方もいると思うのですが、そのまさかです。タライやベビーバスを用いると小型犬でも上手に入浴させることが出来ますよ。入浴の際は、食塩泉や保湿浴を使用しましょう。炭酸泉は弱酸性のため、多汗症の結果上昇したpHを下げるためには有用ですが、血流改善効果によって発汗が促される場合があるため、長時間の入浴には注意が必要です。入浴温度が高温になると皮膚のpHはアルカリ性に傾くため、35 ~ 38℃程度の温浴を5~ 1 0分程度おこないましょう。

入浴を始める場合は、初めは週に2回程度入浴処置をおこない、症状の改善にともなって7~1 0日に1回程度に調整をします。シャンプーを用いる場合は、“洗いすぎ”に注意を払わなければならないため、シャンプーをした後、どの程度で多汗症の症状(ベタベタ)が戻ってくるかを観察して、洗浄頻度を決定しましょう。

犬の汗腺は、大部分がアポクリン腺であり、アポクリン腺は毛包内に汗を分泌しています。したがって、多汗症においては毛穴の汚れが顕著となる場合があり、その場合にはシャンプーの使用を検討します。界面活性剤としては、皮膚に優しいアミノ酸系界面活性剤から初め、汚れの落ち具合によって高級アルコール系界面活性剤の使用を検討します。毛穴のクレンジング効果が期待される有効成分はサリチル酸や硫黄が知られています。

多汗症の解説

多汗症にともなってブドウ球菌の増殖が確認された場合には、抗菌成分配合シャンプーの併用を検討します。犬用の製剤としては、0.5~2%クロルヘキシジン配合製剤がよく用いられますが、多汗症の場合は乳酸エチル配合製剤も有効です。乳酸エチルは皮膚に付着すると乳酸とエタノールに分かれます。乳酸は皮膚のpHを下げ、エタノールは抗菌作用が期待されます。抗菌成分配合シャンプーはブドウ球菌増殖にともないブツブツなどの発疹が出ている部分を中心に使用し、管理ができた場合は休止を検討ます。

 

② 保湿

多汗症では汗による角質軟化が生じている可能性があるため、保湿処置をおこないます。セラミドをはじめとした角質細胞間脂質やヘパリン類似物質などが多汗症の保湿に適しています。ワセリンなどの油剤を過剰に塗布すると、毛孔が塞がる可能性があります。また、尿素などの角質軟化剤は、さらなる角質軟化を生じる可能性があるため、使用を避けると良いでしょう。

 

③ 保護

軟化した角質を保護するため、服の着用などを検討します。とくにアトピー性皮膚炎を併発した犬では、積極的に皮膚を保護しましょう。また、脂漏症と同様、高温多湿な環境を避けることも重要です(夏季は室温25~28℃、湿度60~70%を目標)。また、冬季に多汗症が改善する場合には、洗浄成分や回数を減らしてあげましょう。

 

④ 免疫抑制剤

ステロイド剤やシクロスポリンといった免疫抑制剤が効果あることもあります。

 

⑤ ストレスケア

多汗症の悪化と関連が疑われるストレス要因が存在する場合は、症例の性格や行動を把握し、できるかぎりストレス要因を取り除いてあげましょう。

 

■ 多汗症の予後

スキンケアやステロイドや免疫抑制剤の投与で症状の軽減が認められることがありますが、完治させるのは難しいです。ヒトにも肌質があるように、ワンちゃんにも肌質があります。うまくお付き合いできることをゴールにして、頑張っていきましょう!

また、ライフスタイルや周辺環境の変化など、多汗症が生じる前にストレス負荷のかかる要因が存在する場合があります。引っ越しや赤ちゃんが生まれたなど、環境変化による多汗症の場合、その要因を取り除いてあげることで良くなることが期待できます。

 

■ 獣医師からひとこと

多汗症は、脂漏症だと勘違いしてスキンケアを行っていたために良くならない場合が多い印象があります。若い頃から膿皮症をくり返して抗菌薬の治療のみでは完治しない場合やシャンプー治療で一向に良くならない場合は、一度立ち止まってこの記事の内容を思い出してみてください。この記事が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。

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