犬の膿皮症って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】
皮膚病には細菌や真菌(カビ)、ウイルス、寄生虫などの微生物が原因となって生じる感染症があります。これらの微生物は、体の外の環境から皮膚に感染するものと、皮膚の表面に元々持っているもの(常在微生物)とに分けられます。
常在微生物が増え過ぎることによって、皮膚に悪影響を与えることが多いことはご存知でしょうか。ヒトで言うと、アクネ菌によるニキビなんかが有名ですよね。同様に、常在細菌が引き起こす皮膚病である『膿皮症』について今回解説していきます。
■ 膿皮症とは
皮膚の表層、および毛穴(毛包)の中に常在するブドウ球菌による皮膚炎です。生じる原因は様々であり、皮膚表面に菌が増えたり、皮膚のバリア機能が低下することで生じます。ブドウ球菌は種々の病原因子を産生することで、表皮や毛包内へ侵入し、悪さを働きます。健康な状態では膿皮症は起こらないので、常在細菌が増え過ぎてしまう要因が犬側にあると考えられます。
■ 膿皮症の皮膚症状
皮膚の症状は左右対称にできる事が多いですが、非対称の場合もあります。背中やお腹に症状を認めることが多いです。
① かゆみ
中等度の痒みを伴います。犬アトピー性皮膚炎が背景にあるケースでは、膿皮症の症状が出ている場所以外に、顔(目、鼻、口まわり含む)、耳、首の内側、胸~お腹、脇、股、足先などに痒みを認めやすい傾向があります。
② 発疹
初期にはブツブツ、膿のたまり(膿疱)が認められます。毛穴の中でブドウ球菌が増えた場合は、毛穴に一致したブツブツや膿が認められ、虫食い状の脱毛を伴う事が多くなります。また、輪状に黄色のフケがつくことも膿皮症の症状の特徴です。ブドウ球菌の感染が重度になると、大きなニキビのような腫れへと発展することがあります。
③皮膚以外の症状
犬のアトピー性皮膚炎が背景にある場合は、左右対称性の外耳炎を認める事が多いです。また、食物アレルギーを併発した例では排便回数の増加や、軟便、下痢などの消化器症状を伴う事があります。代謝や免疫力の異常が存在する場合は、活動性や食欲、排便、排尿などに変化が認められることがあるので、注意してみてください。
■ 膿皮症の原因
それでは、なぜ膿皮症が起こってしまうのでしょうか?特に、何回も繰り返す場合は、原因究明が重要になります。
① 多汗症
多汗症では角質層の軟化のほか、皮膚表面のpHがアルカリ性に傾き、細菌が増えやすい環境になります。
※多汗症についてはこちらも
② 犬アトピー性皮膚炎
犬のアトピー性皮膚炎では、皮膚バリア機能が低下することからブドウ球菌が増えやすい傾向があります。また、ブドウ球菌に対するアレルギーが起こる可能性が示唆されています。
ヨークシャー・テリアやミニチュア・シュナウザーは、多汗症や犬のアトピー性皮膚炎の両方を併発することが多いため注意が必要な犬種です。多汗症や犬のアトピーが膿皮症に関係しているケースでは、1~3歳ほどの若い年齢で症状が認められることが多いのが特徴です。また、犬アトピー性皮膚炎では食物アレルギーを併発することがあるため、食事内容への配慮も重要です。
※犬アトピー性皮膚炎についてはこちらも
③ 代謝や免疫力の低下
ホルモンバランスの不均衡など、皮膚以外の臓器にトラブルがあり代謝や免疫力が低下すると、細菌感染が起こりやすくなります。こ中高齢になってから、膿皮症が発症した場合、内分泌(ホルモン)疾患がないかのチェックをオススメします。
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犬の甲状腺機能低下症で毛が生えなくなる|甲状腺機能低下症の皮膚症状の治療を解説
犬の副腎皮質機能亢進症について解説|皮膚の異常が病気のサインかも?!
④ 生活環境やライフスタイル
高温多湿な環境では、多汗症が悪化する傾向があり、ブドウ球菌の活動が旺盛になります。そのため、日本において、膿皮症は夏に多いイメージがあります。
犬のアトピー性皮膚炎においても、季節により症状に変動がみられることが少なくありません。また、不規則な生活やストレス要因で症状が悪化することがあるため、注意が必要です。
■ 膿皮症の診断
ブドウ球菌は膿やブツブツを潰して、細胞診(顕微鏡での観察)を行うことで検出できます。細胞診でブドウ球菌を疑う構造物が確認された場合は、ブドウ球菌の種類と効果のある抗菌薬を調べる検査(細菌培養同定検査、薬剤感受性試験)を併せて行います。
診断にはブドウ球菌が増えた原因(犬アトピー性皮膚炎や多汗症、免疫力の低下など)を調べることが重要となります。とくに中高齢でブドウ球菌感染が見つかり、何らかの体調変動を伴う場合は、血液や尿、レントゲン検査などの健康診断をおこなうことが望ましいです。
また、クロルヘキシジンなどの抗菌成分を配合したシャンプーで皮膚症状が良くなる場合は、ブドウ球菌の関与が疑われます。
■ 膿皮症の治療
① スキンケア
症例に応じて入浴、シャンプー、保湿を組み合わせることで高いスキンケア効果が期待できます。入浴は硫黄泉や炭酸泉が有効です。硫黄泉は毛穴のクレンジング効果が期待できるため、毛穴に一致したブツブツが認められるケースで検討します。炭酸泉は皮膚のpHを酸性に傾けます。
シャンプーの界面活性剤はアミノ酸系~高級アルコール系まで幅広く用いることができますが、犬のアトピー性皮膚炎が背景にあるケースでは、低刺激の界面活性剤と保湿成分が含まれた製剤を選びます。さまざまな抗菌成分がありますが、複数の研究によってブドウ球菌に対して高い効果が証明されている成分は、消毒薬としても用いられる成分のクロルヘキシジン(2~4%)です。しかし、膿皮症と診断され、抗菌成分配合シャンプーでこまめに洗っているのに皮膚の症状が良くならない場合は、頻回の洗浄により皮膚へのダメージが出る多汗症や犬アトピー性皮膚炎が背景にある可能性が疑われます。とくに多汗症で生じる皮膚のベタつきは脂漏症と混同され、積極的な皮脂落としが行われる場合も多いため注意しましょう。
過酸化ベンゾイルやポピドンヨードは抗菌作用がありますが、皮膚への刺激が問題となります。近年の研究では、クロルヘキシジンは過酸化ベンゾイルやポピドンヨードと同等あるいはそれ以上の効果を示す可能性が示されています。乳酸エチルは皮膚のpHを下げ、さらに抗菌作用が期待できるため、多汗症の症例に有効です。
ティーツリーオイルやヒノキチオールはマイルドな抗菌作用が期待されます。セイヨウナツユキソウやボルド葉の抽出物は皮膚が産生する抗菌活性のある物質(抗菌ペプチド)の産生を促す可能性のある物質です。ブドウ球菌の感染が旺盛な初期にはクロルヘキシジンなどの抗菌成分が含まれたシャンプーから開始し、感染がコントロールされたらマイルドな抗菌成分が配合されたものへ変更を検討します。
感染がコントロールされたら、感染の背景にある犬アトピー性皮膚炎や多汗症に準じた管理へ移行します。また、毛穴に一致した発疹がある場合は、毛穴のクレンジング作用のある硫黄やサリチル酸が配合された製剤を、抗菌成分が配合された製剤と併用すると良いでしょう。
保湿剤の制限はとくにありませんが、犬アトピー性皮膚炎の症例には細胞間脂質成分の補充を考えます。洗浄後はしっかりと保湿をおこないましょう。
② 一般的な薬物療法
ブドウ球菌に対しては抗菌薬がよく使われますが、先に述べたスキンケアでも十分な管理が期待できます。ブドウ球菌は常在菌のため、完全に皮膚から消えることはありません。抗菌薬を無計画に投与すると、抗菌薬に対してブドウ球菌が抵抗性を持つようになることが多いため、漫然と抗菌薬を使用し続けるのはやめましょう。
そのほか、犬アトピー性皮膚炎や多汗症などの原因に応じた薬物が使用されることがあります。
③ その他
犬アトピー性皮膚炎の症例では常に食物アレルギーの併発に留意し、環境アレルゲンの回避のための清掃や服の着用などを検討します。高温多湿な夏季においては、室温25~28℃、湿度60~70%を維持します。発汗はストレスで悪化するため多汗症の症例ではストレスケアを行います。免疫力を高めるために乳酸菌製剤などのサプリメントを併用することも検討します。
■ 膿皮症の予後
抗菌療法を行うと3~4週間ほどで膿皮症の症状を軽減することが可能です。しかし、犬アトピー性皮膚炎や多汗症が存在するケースでは再発しやすい傾向があります。
■ 獣医師からひとこと
膿皮症では原因のブドウ球菌に対する治療はもちろん、その原因を考えたケアや治療が大切です。
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