犬のマラセチア皮膚炎って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】
犬の皮膚や毛がベタベタしてフケが多く、かゆがっていて、ニオイも気になる…。このような症状を起こす皮膚トラブルは、ひょっとするとこれが原因かもしれません!
■ マラセチア皮膚炎とは
この“ひょうたん”のようなものがマラセチア
マラセチアは皮膚の表面に常在する酵母様の真菌で、おもに皮脂を栄養にして生活をしています。このマラセチアにより生じる皮膚炎をマラセチア皮膚炎と呼びます。正常な皮膚にも存在するマラセチアが増殖して皮膚に悪影響を与えるということは、『マラセチアが異常に増えてしまう要因が犬側にある』という事です。
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① 脂漏症の要因
マラセチアは脂漏症にともなって増殖します。したがって脂漏症の原因(遺伝、高温多湿な環境、糖質や脂質のバランスの崩れ)は、いずれもマラセチアの増殖につながる可能性があります。
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② 犬アトピー性皮膚炎の要因
犬アトピー性皮膚炎の病変部にもマラセチアが増えます。犬アトピー性皮膚炎では皮膚バリア機能の低下、慢性的な皮膚炎の発生のほか、犬アトピー性皮膚炎の好発犬種の一部は脂漏症の好発犬種であることが、マラセチアが増えやすい要因と考えられています。
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■ マラセチア皮膚炎の皮膚症状
マラセチア性皮膚炎の典型的な症状
① 症状の分布
皮膚の症状は左右対称に分布します。マラセチアは脂漏症と犬アトピー性皮膚炎の好発部位に認められます。とくに皮膚と皮膚が重なる間擦部(顔のシワ、首の内側、脇や股、指の間、尾のつけ根)で活発に増える傾向があります。
② かゆみ
中等度のかゆみをともないます。犬アトピー性皮膚炎を併発し、マラセチアに対してアレルギー反応を起こす症例では、重度のかゆみになることもあります。
③ 発疹
初期には赤み、ベタつきのある大型のフケが生じます。かゆみ動作が慢性化すると、ゴワゴワ、脱毛、色が黒くなるといった症状へと発展します。
④ 皮膚以外の症状
脂漏症や犬アトピー性皮膚炎が背景にある場合は、左右対称性の外耳炎がよく認められます。耳垢はベタベタしたワックス状となり、マラセチアが増殖します。
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また、食物アレルギーを併発した例では消化器症状を伴うことがあります。脂漏症の背景に代謝異常が存在する場合は、活動性や食欲の低下、体重の増加などが認められます。
■ マラセチア皮膚炎の原因
① 品種
脂漏症や犬アトピー性皮膚炎の好発品種はマラセチアの増殖を認めやすい傾向にあります。とくに両疾患の好発品種であるウエストハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズーには注意が必要です。
② 年齢
マラセチアの増殖が認められるようになった年齢から、増殖要因をある程度推測する事が出来ます。
- 3~6カ月齢:遺伝的な要因(生まれつき)で脂漏症がある
- 3歳未満:犬アトピー性皮膚炎が背景にある
- 中高齢:代謝異常などで脂漏症になった
③ マラセチアによる直接的な皮膚障害
マラセチアが増殖すると、皮膚を障害する種々の物質を産生します。
④ 免疫の要因
マラセチアに対してアレルギー反応が起こり、皮膚炎やかゆみを生じる可能性があります。アレルギー反応が起こるケースでは、マラセチアの数が少なくてもかゆみが強くなる傾向があります。とくに犬アトピー性皮膚炎を併発している犬では、マラセチアに対するアレルギー反応を起こしやすいと考えられています。
⑤ 食事の内容
年齢にあった栄養バランスがとれていない場合や、糖質や脂質が過剰に給与されている場合に脂漏症が悪化します。また、犬アトピー性皮膚炎の症例では食物アレルギーを併発することが少なくありません。
⑥ スキンケアの状況
週に1回以上洗わないと皮膚のフケやベタつきが管理できない場合は、脂漏症が疑われます。(頻回のシャンプーで皮膚バリア機能が障害されているため)。とくに洗浄後に保湿が行われていない、過度なドライイングが行われている症例では注意が必要です。
⑦ 生活環境とライフスタイル
高温多湿な夏季には脂漏症が悪化する傾向があります。犬アトピー性皮膚炎の症例でも症状の変動に季節が関係することがあります。また、犬アトピー性皮膚炎では不規則な生活やストレス要因で症状が悪化することがあります。
⑧ 治療経過
皮膚と毛の洗浄、ステロイドや抗真菌薬を使うことで症状が緩和する場合には、脂漏症や犬アトピー性皮膚炎の関与が疑われます。
■ マラセチア皮膚炎の診断
マラセチアの検出は容易で、テープやスライドグラスを皮膚に押捺する皮膚押捺塗抹検査を用います。しかし、マラセチアを見つけることが診断において一番重要なポイントとなるわけではありません。それよりも、なぜ常在微生物のマラセチアが増えたのか?という要因を調べることが重要です。したがって、マラセチアの増殖要因となりやすい犬アトピー性皮膚炎と脂漏症の探索(外部寄生虫の除外、食物アレルギーを診断するための除去食試験、代謝異常のチェックなど)を動物病院で行う必要があります。
■ マラセチア皮膚炎の治療
① スキンケア
マラセチアを除去しつつ、皮脂やフケを管理するためにはクレンジング剤、入浴(重曹泉、硫黄泉など)、シャンプーが有用です。皮脂汚れをしっかり除去するためには高級アルコール系界面活性剤、角質溶解剤、脱脂剤などを含んだシャンプーを用いますが、犬アトピー性皮膚炎の併発が疑われるケースでは皮膚バリア機能障害の可能性を考慮して、アミノ酸系界面活性剤および保湿剤配合シャンプーから始めます。
マラセチアへの抗菌作用が期待できる物質には、クロルヘキシジン、ミコナゾール、ピロクトンオラミンなどが挙げられます。2%クロルヘキシジン・ミコナゾールを含有した洗浄剤は、マラセチア皮膚炎に対して高い効果が得られることが報告されています。しかし、抗菌作用を有する洗浄剤はあくまでもマラセチアを除去することに特化したものです。マラセチアの除去が達成された後に漫然と抗菌作用を有する洗浄剤を継続することは、適切なスキンケアとは言えません。ベースのスキンケアとして、マラセチアの増殖要因となる犬アトピー性皮膚炎や脂漏症に準じた洗浄をおこない、マラセチアが増えた際に抗菌作用のある洗浄剤を併用することが長期的なスキンケア管理を成功させるポイントと考えられます。
シャンプーや入浴による洗浄の頻度は週に2回から始め、マラセチアが良好に管理されたら5~7日に1回程度と頻度を下げていきます。
洗浄後には保湿を行います。脂漏症を併発し、フケやゴワゴワがある場合は角質軟化作用のある尿素が有用です。犬アトピー性皮膚炎の犬ではセラミド関連物質の補充を洗浄後だけでなく日常的に使用することを検討します。
② 薬物療法
マラセチアに対しては抗真菌薬がよく用いられますが、先に述べたスキンケアでも十分な管理が可能です。その他、犬アトピー性皮膚炎などマラセチアが増えた原因に応じてステロイドや抗アレルギー剤などが使用される場合があります。
③ その他
年齢に合っていない食事、糖質や脂質の過剰摂取が確認された場合は、適切な栄養バランスの食事に変更します。犬アトピー性皮膚炎の犬では常に食物アレルギーの併発がないか注意しましょう。
高温多湿な夏季においては、室温25~28℃、湿度60~70%を維持します。また、犬アトピー性皮膚炎の併発例では、環境アレルゲンの回避のための環境清掃や服の着用などを検討します。
■ マラセチア皮膚炎の予後
若齢から発症する犬アトピー性皮膚炎や脂漏症が原因であるケースは完治が難しく、生涯にわたる管理が必要となります。
■ 獣医師からひとこと
マラセチアの増殖は脂漏症や犬アトピー性皮膚炎などとともに認められるため、菌に対するスキンケアだけではうまく行きません。元々の原因をしっかり把握してケアすることが、健康な皮膚を取り戻すポイントです。ぜひ参考にしてみてくださいね!
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