動物病院での血液検査で、犬のアトピー性皮膚炎を調べられる?
犬のアトピー性皮膚炎は人間と同様に増えてきている皮膚疾患です。飼い主様から、「血液検査でアトピーかどうか調べられないの?」「アトピーの原因が何か知りたい。何か検査する方法ってないんですか?」といったご意見をよく伺います。今回はこのご質問に、獣医皮膚科専門医がお答え致します。
血液検査でアトピー性皮膚炎かどうか調べられないの?
残念ながら、血液検査だけではアトピー性皮膚炎の確定診断にはなりません。現代の獣医療では、犬のアトピー性皮膚炎を診断可能な特異的検査は存在しません。
じゃあ、どうやってアトピー性皮膚炎を診断するの?
獣医師がアトピー性皮膚炎を診断する方法を、下記でお見せします。
①年齢、品種、皮膚症状や治療反応がアトピーに合致しているか?
- 多くが3歳までに発症
- 柴犬、シー・ズー、ウェストハイランド・ホワイトテリア、フレンチ・ブルドッグ、ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバーなどの好発犬種
- 室内飼育
- 顔や耳、首の内側やお腹、腋の下や股、手足やお尻周のかゆみ・皮膚炎
- 左右ともに皮膚症状が出る
- 外耳炎になりやすい
- ステロイドの薬でかゆみがおさまる
②アトピーに似た他の皮膚病にかかっていないか?
- 寄生虫の感染(ノミやヒゼンダニ、ニキビダニ)
- 菌の感染(膿皮症やマラセチア皮膚炎)
- 食事のアレルギー
必ず全ての項目に当てはまる訳ではなく、皮膚の状態や発症背景と照らし合わせる事で、診断に近づけていきます。国際的なアトピー性皮膚炎の診断基準でも、犬のアトピー性皮膚炎の診断に血液のアレルギー検査は必須とはされておりません。
右イラストは痒みが出やすい部位を示しています。(痒みが出やすい順に 赤>ピンク>オレンジ>肌色)
アトピー性皮膚炎の原因を検査する方法はないの?
では、どのような場合に血液検査をするのでしょうか。その答えとしては、「アトピー性皮膚炎の原因アレルゲンを調べるためには血液のアレルギー検査が有用」となります。つまり、「この子はアトピー性皮膚炎ですよ」という確定診断は出来ないけれど、「これが原因アレルゲンかもしれません。」という詮索をする事が出来ます。
血液のアレルギー検査、どれをやればいいの?
血液のアレルギー検査は複数の種類がありますが、アトピーの環境アレルゲンを調べるためには「アレルゲン特異的IgE検査」というものが有用です。この検査は、血液中にそれぞれの環境アレルゲンに対して体が反応しやすいかどうか、を調べる検査となります。
アレルギー検査の中には、『毛を採取してアレルゲンを推測する』というものがありますが、実績が高くて欧米においても信頼性が高いものは『血液を解析する検査』であることに注意しましょう。また、ステロイドなどのかゆみ止めを服薬している場合は、検査に影響する可能性があるため、一時的にお休みする必要があります。
血液検査でアレルゲンが分かったら、どうすればいいの?
原因アレルゲンが特定されれば、できるだけそのアレルゲンを回避することが症状の緩和につながります。たとえば、スギの花粉に陽性反応が出て、春にかゆみが悪化する症例は、外出の際に服を着用したり、外出後は皮膚に付着したアレルゲンをブラッシングやシャンプーなどで落とすなどのケアを検討します。また、ハウスダストなどのアレルゲンに陽性反応が出た場合は、アレルゲンを徐々に体に慣らしていく治療(減感作療法)を行うことも可能です。
アレルギー検査で気をつけなければいけないこと
一方、検査結果の解釈には注意が必要です。たとえば、すべての検査項目が陰性(問題なし)と判断されても、アトピー性皮膚炎を否定することはできません。『アレルギー検査は生活環境に存在するすべての環境アレルゲンを同定できるものではない』事も理解しましょう。
あくまでもアレルギー検査は、環境アレルゲンに対してアレルギー反応を起こしやすい体質かどうかを調べる検査です。しかし、アトピー性皮膚炎は環境アレルゲン以外にも様々な要因が複雑に関与して発症します。したがって、検査が陰性でも症状がアトピーに一致し、他のかゆい病気が否定されていれば、アトピーと診断されます。
まとめ
いかがでしたか?少し難しいかもしれませんが、愛犬のために一歩一歩着実に知識を増やしていきましょう!
アレルギー検査は、アトピー性皮膚炎の診断には必須ではないのですが、原因となる環境アレルゲンを同定することで、生活環境の改善など薬物以外の治療選択の幅を広げることのできる検査といえます。正しい理解のもとで、検査を実施するかを動物病院の皮膚科医と相談してみて下さい。
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