日本皮膚科学会に獣医皮膚科医が参加してきました

第117回 日本皮膚科学会総会
コラム

2018年5月31日から6月3日に広島で開催された第117回日本皮膚科学会に参加してきました。この学会は日本全国の皮膚科の医師や看護師、研究者が一同に集まり、日頃の治療や研究の成果の発表や教育の場として、年に1回開催されています。

■日本皮膚科学会とは

まずは、日本皮膚科学会の理念・コンセプトについて紹介します。

日本皮膚科学会は、明治33年(1900年)12月、東京帝國大學教授土肥慶蔵博士の提唱により創立されました。(中略)21世紀、この学会の果たすべき役割は、ますます高まってくると考えられます。たとえば、地球的な規模で進んでいる生活環境の変化等に関連づけられる諸疾患の原因究明や医療体制の充実などが急がれます。わけても、今や多くの国民が関心を持つようになったアトピー性皮膚炎の診断に関しては、学会で治療ガイドラインを作成したところですが、加えて、新しい治療薬の開発等に国民の期待が集まっています。また、遺伝子レベルでの病態解明と治療の開発についても成果が積まれており、今後ますます発展することと考えられます。このような「時代の課題」はまだまだ多く、21世紀も、皮膚科学は人類の健康としあわせのため、たゆみなく進展し続けることでしょう。

設立から100年以上経過している由緒正しき学会です。今年の日本皮膚科学会は117回目となるのですが、日本獣医皮膚科学会が21回目である事からもその歴史の深さを感じる事が出来ます。ヒトの皮膚科医療技術や研究の進歩も学び、獣医皮膚科に還元する事が大切です。

日本皮膚科学会 ポスター発表

自分の研究結果を紹介する『ポスター発表』も凄い数です!

 

■ どうして(ヒトの)皮膚科学会に獣医師が参加するの?

『ヒトと動物では病気が異なるのではないか』と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに全く同じではないのですが、犬や猫などの動物とヒトの体の構造はとても似ています。そして皮膚病も同様であり、例えば、ヒトと犬のアトピー性皮膚炎は病気の仕組みが似ているところが過去の研究で確認されていますし、更には、犬のある脱毛症がヒトの脱毛症である男性型脱毛症(AGA)と似ているのではないかとの報告もあります。

そのような理由から、「ヒトで行われている皮膚病の診断や治療を動物にも役立てられる可能性がある。そうなれば、より多くの“皮膚病に悩む動物とご家族を救う”ことができる。」そのように考え、私達獣医皮膚科医はヒトの医学も参考にして勉強を続けています。

 

■ アトピー性皮膚炎 患者さんのご講演

今回の学会ではたくさんの興味深い講義がありました。その中で最も印象に残ったのはアトピー性皮膚炎の治療に苦しんだ患者様ご自身による講演でした。いつまでも続くかゆみと痛み外見に対する劣等感いつになったら治るのかという不安医師に対する不信感があったことなどを赤裸々に語られました。その方は治療を根気強く続けて症状が改善し、今はNPO法人日本アレルギー友の会で悩みを抱えた患者様から寄せられる相談や患者への正しい知識の普及活動などのサポートをされていらっしゃるそうです。このように実際の患者さんの声を聞く事で、自分の診察や診察態度を振り返り、時に反省し、より良い皮膚科診察に還元するという考えは素晴らしいものであると思います。

また、治りにくい症状に不安を感じたり、犬の外観から散歩に連れて行きづらくなる、そして獣医師に対する不信感など、愛犬・愛猫の皮膚病に悩むご家族が同様の事を感じてらっしゃると容易に想像出来ました。私達も、この『ペットのひふ科』のみならず、飼い主さん向けセミナーなどを通して、より多くの声に耳を傾けていきたいと思います

■ 患者の視点から見たステロイドの功罪丸山 恵理様(NPO法人日本アレルギー友の会)

アトピー性皮膚炎患者を取り巻く現状の一番の問題点は医療不信による重症化です。インターネットなどからの誤った情報により、ステロイド外用薬を急にやめるために症状が悪化し、社会生活を阻害されているような方もいます。

アトピー性皮膚炎患者の多くはステロイド外用薬に不安を持ちながら治療しているため、薄く塗っていたり、早くやめてしまうために再燃を繰り返し、塗っても効かないと思ってしまいます。そしてステロイド外用薬に対する誤った情報により、薬をやめないと治らないと思い、治療を急にやめることにより症状を悪化させる方が今でもいるのです。

このように患者が適切な使い方がわからないままに塗るという現状を改善し、安心してステロイド外用薬を使用して効果を実感できるような適切な使用方法を先生方にご指導いただきたく、具体的にどのようなご指導を頂きたいかをお話いたします。

皮膚科学会の会場

 

■ 私達にできること

現在はインターネットを中心に多くの情報にアクセス出来るようになりました。しかし、それらの情報は玉石混交である為、正しい情報かどうかの判断が必要になりました。今回紹介したような学会では、発表内容は必ず権威(大学教授など)による査読がなされます。つまり、その道のプロフェッショナルが認めない情報が流通しないようにして、その学会の質や情報の正確さを担保しております。これがインターネットの情報との一番の違いとなります。

しかし、皆が皆、学会やセミナーに参加出来る訳ではありません。その為、この『ペットのひふ科』では、誰でもアクセス出来るインターネットサイトに、獣医皮膚科医が質の高い情報を掲載する事を心がけています。そして、私達はこれからも動物やご家族の気持ちに耳を傾けながら診療に携わりたいと思っています。また、皮膚のトラブルに関する正しい知識を皆様にご提供できるよう、努力して参ります。

ご友人や周りの方で、愛犬・愛猫の皮膚病で苦しんでいる方がいれば、このサイトをお教え頂けないでしょうか。そのような方に、皮膚病ともっとうまく付き合える、あるいは治す事が出来るという事を伝え、1つの希望になっていきたいと思っております。今後共お付き合いの程宜しくお願い致します。

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